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東京高等裁判所 昭和25年(ネ)1547号 判決 1951年3月27日

控訴人 原告 曽我一英 藤田友子

訴訟代理人 玉井潤次

被控訴人 被告 新潟県教育委員会

訴訟代理人 伴純

主文

本件控訴はこれを棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴人等代理人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和二十五年五月十一日附を以てなした控訴人等の転任並びに休職処分の審査請求を却下する旨の決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠の提出、認否は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

控訴人等はいずれも新潟県公立学校教員として、もと新潟市関屋中学校の教諭であつたが、被控訴人は昭和二十四年十一月三十日附を以て、控訴人曽我一英に対し新潟県西蒲原郡坂井輪中学校に、また控訴人藤田友子に対し新潟市宮浦中学校に、それぞれ転任を命じ、同時に控訴人等を休職処分に付し、右休職処分の処分説明書を、控訴人曽我一英には同年十二月七日に、また控訴人藤田友子には同月六日に、それぞれ交付した。そこで控訴人等は教育公務員特例法第十五条第三項、国家公務員法第九十条第九十一条に基き、同月十三日附書面を以て、被控訴人に対し右転任並びに休職処分について口頭審理を行つて審査をなすべきことを請求し、右書面は同月十九日被控訴人に送達され被控訴人はこれを受領したところが被控訴人はその後控訴人等に対し、昭和二十五年四月六日頃到達の同月四日附書面を以て、昭和二十五年新潟県教育委員会規則第七号「教育公務員の意に反する不利益な処分及び懲戒処分に関する審査の規則」に従い、同月二十日までに審査請求書を補正するように命じたが、控訴人等はこれに応じなかつたので、被控訴人は口頭審理を行うことなく、同年五月十一日附を以て、同規則第三条第三項により控訴人等の審査請求を却下する旨の決定をなし、右決定は同月十二日控訴人等に告知されたものである。以上の事実は本件当事者間に争いがない。

教育公務員特例法第十五条第一項乃至第三項並びに同条第三項によつて準用される国家公務員法第九十一条第一項第二項によると、教育委員会が処分を受けた教育公務員から提起された当該処分の審査請求を受理した場合において、その請求者から請求があつたときは、口頭審理を行わなければならないことゝなつている。

しかるところ控訴人等は右審査請求が被控訴人によつて受理されたものであると主張し、被控訴人が昭和二十四年十二月十九日控訴人等の提出した審査請求書を受領したことは前述のとおりであり、しかも成立に争いのない甲第一号証の一、二によれば、被控訴人は同年十二月二十二日附書面を以て控訴人等に対し「審査請求書を受理した」旨を通知したことが明かである。

しかしながら国家公務員に対する不利益処分に関する国家公務員法第九十一条第九十二条による審査の手続については、別に昭和二十四年八月二十日施行の人事院規則(一三――一)が制定せられておつて、同規則には、審査請求の形式的並びに実質的審査に関する詳細なる手続が規定されているけれども、同法第九十一条第九十二条(但し第三項を除く)が準用される教育公務員の審査請求に関する審査手続については、同法には別段の規定なく、この点は別に教育委員会法第五十三条に基き制定さるべき教育委員会の規則の定めるところに委ねられている。しかるに当時新潟県教育委員会においては、未だ右審査手続に関する規則は制定されていなかつたのである。以上の経緯から考えると、新潟県教育委員会においても、当時教育公務員の意に反する不利益な処分及び懲戒処分に対する審査請求の形式的並びに実質的審査手続に関する規則の制定が当然予見されていたものと解せられるし、しかも教育公務員特例法若しくは同法によつて準用される国家公務員法には右審査手続に関する詳細の規定を欠くところから、右規則の制定前においては、被控訴人は被処分者から審査請求を受けても、事実上審査の手続を進めることができなかつたものと考えられる。従つて前述の如く、被控訴人が控訴人等の提出した審査請求書を受領し、更に控訴人等に対し「審査請求書を受理した旨」を通知したとしてもその「受理」というのは、国家公務員法第九十一条第一項(従つてまた同法条に定むる審査請求の受理に関し規定した前示人事院規則8)にいうが如き、審査請求書の形式的要件に何等不備のない適法なものとして、その請求を受理したという趣旨ではなく、単に該審査請求書の提出を受けこれを受領した意味に過ぎないものと認めるのが妥当であつて、このことは前掲甲第一号証の一、二によつて明かな如く、被控訴人が控訴人等に対し右通知とともに、審査の日その他事前にとるべき必要な手続は追つて文書を以て通知する旨を断つている事実からみても、これを窺うに十分である。

しからば被控訴人は本件審査請求書を適法に受理したものといえないから、控訴人等主張の如く、国家公務員法第九十一条第一項第二項に則り、被控訴人において直ちに口頭審理によつて事案を調査すべき職責ありとなすことはできない。

しかるところその後、教育委員会法第五十三条に基き、昭和二十五年新潟県教育委員会規則第七号「教育公務員の意に反する不利益な処分及び懲戒処分に関する審査の規則」が昭和二十五年三月二十四日公布即日施行されたのである。ところが同規則はその施行後に行われる審査の手続に適用さるべきものであるから、その施行前になされた、審査請求に対しても、その施行後に行われる該請求の形式的並びに実質的審査の手続については、やはりその適用があるものと解しなければならない。従つて右規則施行前に提出された審査請求書についてもその施行後に実施される審査手続において、右規則に照し、その形式的要件に不備があるものと認められるときは、被控訴人は同規則第三条第二項によつて審査請求者にその補正を命じ、これに応じないときは同条第三項に則り審査の請求を却下することができるものと解するのが相当である。

本件においては、前述の如く、控訴人等は被控訴人より右規則施行後の手続として審査請求書の補正を命ぜられたに拘らずこれに応じなかつたものであつて、その補正を命じた所以は、成立に争いのない甲第二号証の一、二、乙第三号証、同第五号証並びに弁論の全趣旨に徴すると、右規則第二条によれば審査請求書には「処分に対する不服の理由」を記載しなければならないのに、控訴人等より提出した審査請求書にはその記載を欠いていたので、被控訴人は控訴人等に対しその不備を昭和二十五年四月二十日までに補正すべきことを命じたに拘らず控訴人等はこれに応じなかつた事実を窺うことができる。従つて被控訴人において控訴人等が右補正命令に応じなかつたことを理由として同規則第三条第三項に則りその審査の請求を却下したことは適法であつて何等非難すべきものはない。

しからば前示却下決定を違法なりとしてこれが取消を求める控訴人等の本訴請求は失当であつてこれを棄却すべきものとする。

従つてこれと同趣旨に出でた原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判長判事 渡辺葆 判事 浜田潔夫 判事 牛山要)

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